ひたち海浜公園のエゾスズラン(ハマカキラン)

2024年6月6日のことだが,国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市馬渡)を訪問し,砂丘地の区画内にあるエゾスズラン(Epipactis papillosa)の自生地を散策した。

国営ひたち海浜公園に自生しているエゾスズランは,以前は,エゾスズランの海浜型変種であるハマカキラン(Epipactis papillosa var. sayekiana)として分類され,また,アオスズラン(Epipactis helleborine)とは別種とされていた。
現在では,エゾスズラン,ハマカキラン,アオスズラン及びマルバハマカキラン(Epipactis papillosa var. sayekiana f. rotundifolia)の全部が植物種としては同一種であり,生育環境の相違により外形的形質が異なっているように見えるのに過ぎないと理解されている。要するに,植物種としては,エゾスズランだけが存在するものとして扱われ,他の名称(アオスズラン,ハマカキランなど)は全てエゾスズランの異名(synonym)として扱われている。

従来使用されてきた「Epipactis helleborine」との学名の植物に関しては,北半球に広範に分布する植物のことを指し,過去において別種として扱われてきた非常に多数の植物種が実は同一種であったということが明らかとされている(The Epipactis helleborine Group (Orchidaceae): An Overview of Recent Taxonomic Changes, with an Updated List of Currently Accepted Taxa, Plants 2021, 10(9), 1839; https://doi.org/10.3390/plants10091839 )。
現時点において,「Epipactis helleborine」と「Epipactis papillosa」とが同一種であるとすれば,エゾスズランの正名を「Epipactis helleborine」とすべきであり,「Epipactis papillosa」は「Epipactis helleborine」の異名(synonym)として扱うべきことになる。

2023年6月29日にもひたち海浜公園を訪問し,エゾスズラン(ハマカキラン)を探してみたのだが,その時には既に花が終わって果実の状態になっている個体しか見つけられなかった。

今回は,昨年よりもずっと早い時期にひたち海浜公園を訪問し,探してみた。昨年見つけた場所には1本も生えていなかったけれども,別の場所で蕾をつけた個体と開花中の個体を見つけることができた。

もしかすると絶滅してしまっているのではないかと心配していたのだけれども,立入禁止ではない場所から観察可能な範囲内だけでも元気な株を複数発見でき,非常に幸運だった。

詳しいことは分かっていないけれども,共生菌を介してクロマツなどの松の仲間と栄養従属関係にある特殊な生態をもつ植物とされており,栽培は100%不可能。
強いて言えば,一般的に理解されている意味での「栽培」とは全く異なるかもしれないが,クロマツの生えている砂浜(海浜)を何ヘクタールか所有した上で,その砂浜のクロマツに共生菌であるキノコの類の菌糸を寄生させ,繁殖させた上で,その松林にこの蘭の種子を散布しておけば,(運が良ければ)何十年か後には芽が出てくるかもしれないということは可能だと言い得ると思う。ただし,遺伝子攪乱のリスクがあるため,このような方法は,あまり推奨されていない。


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 Flora of China: Epipactis papillosa Franchet & Savatier



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