ヒメコウゾ(コウゾ)の雌花
2024年4月28日のことだが,葛西臨海公園(東京都江戸川区臨海町)を訪問し,上の池と下の池の間付近を散策した際,コウゾまたはヒメコウゾではないかと思われる木に赤い花が咲いているのを見ることができた。
一般に,ヒウメコウゾとコウゾとの関係に関しては,両者を分けないで同一種とする見解と,別種とする見解がある。
別種とする見解では,ヒメコウゾの学名を「Broussonetia monoica」とすることが多い。この立場では,コウゾをカジノキ(Broussonetia papyrifera)との交雑種として理解し,コウゾの学名を「Broussonetia ×kazinoki」とすることが多い。
また,別種とする見解では,ヒメコウゾを雌雄異株とし,コウゾを雌雄同株とする見解が多いのだが,実際には中間的な形質をもつ個体が少なくないことから,雌雄異株か雌雄同株かを見分けられないことがあるようだ。
完全に雌雄異株となっている個体だけをヒメコウゾとして同定し,どちらかわからないものは交雑種としてのコウゾ(Broussonetia ×kazinoki)と同定するのが妥当なのではないだろうか。
同一種とする見解では,ヒメコウゾとコウゾを分けないので,和名を全て「コウゾ」とし,学名を「Broussonetia kazinoki」とすることが多い。
また,同一種とする見解では,雌雄異株の個体と雌雄同株の個体が存在する点に関し,個体差の一種として理解することになるのだろうが,よくわからない。
同一種とする見解においては,論理的には,雌雄同株に関しては,雄花が多くても少なくても常に個体差の範囲内として理解し,他方,雌花しかつけない個体に限定して,著しく異なる外形的形質ではあるけれども雄花が顕著ではないという個体差の範囲内にある個体(または,雄花をつける遺伝子が退化した品種もしくは雄花をつける遺伝子が抑制されている品種)として理解するのが正しいのだろうと思われる。
一般に,雌雄異株のような著しく異なる外形的形質をもつ品種が(突然変異により)出現し,かつ,そのような品種が自然界で生存し続ける確率は,人間が全く関与しない環境では(短くても)何万年に1回くらいかもしれないが,人間が栽培・育成する植物種に関しては,自然界では生きていけないタイプの品種でも人間による栽培の結果として生存し続けることがあるので,かなり頻繁に発生し,かつ,栽培環境の中で生存し続ける確率が高まることが確実であると言える。
そして,コウゾは,アジア極東地域では,古代から,繊維を利用するために栽培されてきた植物種なので,その中から園芸品種としてヒココウゾの雌花だけのタイプのものが見いだされ,株分けなどによって今日まで伝えられ,「ヒメコウゾ」という別種として理解されるようになったと考えることは可能と思われる。
人類が栽培・育成した可能性のある植物種や動物種に関しては,分類学上,常にそのような視点をもつべきだ。その結果,その遺伝子分析を基礎とする系統分類においても,標準的または平均的な突然変異確率を適用するのではなく,「最短では毎年突然変異を発生させる可能性がある」という短い期間単位でものごとを考える必要性がある。遺伝子編集によって生成される品種に関しては,それが秒単位となり得る。つまり,遺伝子分類の基礎となる重要な確率要素に関して,根本的な発想の転換が求められていると言える。
そういうわけで,なかなか面倒なのだが,葛西臨海公園で見たものは,雌花だけを咲かせるタイプのもののように見える。約をつけた花(雄花)が見当たらない。
それゆえ,葛西臨海公園でみた植物は,コウゾとヒメコウゾとを分ける見解では「Broussonetia monoica」を学名とし,和名を「ヒメコウゾ」とする植物であることになる。
他方,コウゾとヒメコウゾとを分けずに「コウゾ」として統一的に分類・理解する見解では「Broussonetia kazinoki」を学名とする植物であることになる。
同上
同上
葛西臨海公園
三河の植物観察:ヒメコウゾ 姫楮
Flora of China: Broussonetia kazinoki Siebold
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