つくば植物園:レンギョウの仲間(Forsythia)

疑問に思ったので,本日,つくば植物園(茨城県つくば市天久保)を訪問し,園内にあるレンギョウ属(Forsythia)の花を再度見て回った。

シナレンギョウ(Forsythia viridissima Lindley)の前には相変わらず「チョウセンレンギョウ」の標識が立てられている。

しかし,Flora of Chinaの記述等を参照する限り,このタイプの植物がシナレンギョウに該当することは間違いない。
佐竹義輔・原寛・亘理俊次・冨成忠夫編『日本の野生植物 木本Ⅱ』(平凡社,1989年)の178頁には,シナレンギョウ(Forsythia viridissima)の説明として,「花は黄色で4月ごろ下向きに咲き,ほぼ同時に新条の葉が展開する」と記されている。

けれども,国立科学博物館としては,このタイプの植物が「チョウセンレンギョウ」なのだという認識・理解を維持しているということなのだろうと推測される。ただし,その理論的根拠を示す学術論文等の存否は不明。

一般に,典型的なシナレンギョウ(Forsythia viridissima)の開花時には,同時に葉が出る。
Flora of Chinaの記述による限り,レンギョウ(Forsythia suspensa (Thunberg) Vahl)は,開花時に少しだけ新条の葉が出るが,シナレンギョウでは花と同時に出る新条の葉がどんどん展開する。

ちなみに,前掲『日本の野生植物 木本Ⅱ』の178頁によれば,シナレンギョウの伝来時期に関し,「日本へは天和年代(1681-83)ごろにすでに伝わっていたようである」とのこと。


Forsythia viridissima
シナレンギョウ
Forsythia viridissima
(標識は「チョウセンレンギョウ」)


Forsythia viridissima
同上


Forsythia viridissima
同上


他方,チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana (Rehder) Nakai (Syn. Forsythia viridissima Lindley var. koreana Rehder))の前には相変わらず「シナレンギョウ」の標識が立てられている。

ほぼ全ての植物図鑑を参照して検討したが,このタイプの植物がチョウセンレンギョウに該当することは間違いない。

しかし,国立科学博物館としては,このタイプの植物が「シナレンギョウ」なのだという認識・理解を維持しているということなのだろうと推測される。ただし,その理論的根拠を示す学術論文等の存否は不明。

典型的なチョウセンレンギョウ(Forsythia koreana)の開花時には葉がない。この点は,ヤマトレンギョウ(Forsythia japonica)と同じ。

前回訪問時から1週間経過しているけれども,まだ新条の葉が出ているとは言えない状態のままだ。
ちなみに,朝鮮半島に自生するとされているレンギョウ属の植物に関し,更に細かく分類する見解がある。その見解に立脚した場合,日本国内で「チョウセンレンギョウ」として流通している植物が一体何という学名の植物に該当するのかは不明。


Forsythia koreana
チョウセンレンギョウ
Forsythia koreana
(標識は「シナレンギョウ」)


以上については,問題が解決する日は来ないかもしれない。

しかし,この状態を放置した結果として,もし韓国との間で何らかの外交問題が生じたときは,国立科学博物館の館長が全責任を負うことになる。

***

日本固有種とされるヤマトレンギョウ(Forsythia japonica Makino)は,中国地方のカルスト地帯のみに自生する地味で小型の植物であり,チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana)と同様,開花時には新条の葉が出ない。雌雄異株の植物とのこと。
見栄えがイマイチなので,園芸用に利用されることはないようだ。

前回訪問時から1週間経過しているけれども,まだ新条の葉が出ているとは言えない状態のままだ。


Forsythia japonica
ヤマトレンギョウ
Forsythia japonica


つくば植物園には,小豆島のみに自生する日本固有種であり,絶滅危惧種となっているショウドシマレンギョウ(Forsythia togashii Hara)も植栽されている。自生地は,海抜700mの崖の上とのこと。
開花と同時に新条の葉が出る。


Forsythia togashii
ショウドシマレンギョウ
Forsythia togashii


Forsythia togashii
同上


Forsythia togashii
同上


以上のレンギョウ属植物とは別に「レンギョウ(Forsythia suspensa (Thunberg) Vahl)」という植物がある。

「レンギョウ(Forsythia suspensa)」は,中国原産の植物であり,開花時には新条の葉が同時に出る。
Flora of Chinaの記述によれば,その花は上向きまたは横向きに咲くようだ。そして,同一の個体の中に上向きの枝と下向きの枝とが混在することがあるという特徴をもつ植物らしいので,もともと交雑起源の植物かもしれない。

つくば植物園内には,複数の場所に「レンギョウ(Forsythia suspensa)」と書かれた標識が立てられている植物が植栽されている。
ところが,つくば植物園にの花は,下向きに咲いている。
それゆえ,花が上向きまたは横向きに咲くという特徴と矛盾していることになる。

もしかすると,つくば植物園の中で「レンギョウ(Forsythia suspensa)」として植栽されている植物は,「Forsythia suspensa (Thunberg) Vahl」という学名をもつ植物ではなく,別の種または品種または雑種であるかもしれないという疑問が生ずる。

ちなみに,Flora of Chinaの記述(付属の図版)による限り,シナレンギョウ(Forsythia viridissima)は花が下向きで開花するとのことなので,つくば植物園の園内で「レンギョウ(Forsythia suspensa)」として植栽されている植物の花の特徴と一致しており,かつ,花と同時に新条の葉が出て展開し始めている。
あくまでも外形的な形質を前提とする限り,つくば植物園の中で「レンギョウ(Forsythia suspensa)」として植栽されている植物は,シナレンギョウ(Forsythia viridissima)の品種または雑種であり得る。


Forsythia suspensa
教育棟脇にあるレンギョウ
Forsythia suspensa


Forsythia suspensa
同上


Forsythia suspensa
同上


Forsythia suspensa
同上


Forsythia suspensa
温帯資源植物の区画にあるレンギョウ
Forsythia suspensa


更に,レンギョウ(Forsythia suspensa)とは別に,レンギョウとして流通している植物の中にはアイノコレンギョウ(Forsythia xintermedia)と呼ばれる一群の交配種がある。様々なタイプの交配種があるらしい。

つくば植物園の園内にアイノコレンギョウが植栽されているかどうかは不明。



  やまとれんぎょう (大和連翹)

 ショウドシマレンギョウ

 Flora of China:Forsythia Vahl, Enum. Pl. 1: 39. 1804.

 国立科学博物館筑波実験植物園(つくば植物園)


この記事へのコメント