水戸市杉崎町:杉崎古墳群(その1)

過日,杉崎古墳群(茨城県水戸市杉崎町)の一部を見学した。

杉崎古墳群を構成する古墳は,武具池の南側に位置する山の尾根上とその山の南側斜面に分布している。
杉崎古墳群の所在地となっている山の西側は「桜の宮ゴルフ倶楽部」というゴルフ場となっており,そのゴルフ場敷地内にも古墳が残存しているようなのだが,同倶楽部では「古墳の見学は危険」という理由で,クラブハウス近くにある「和尚塚」を含め,ゴルフ場敷地内にある古墳見学を目的とする立入りを許可していない。
また,杉崎古墳群の分布域南端の一部はハイトリースポーツクラブ(High Tree Sports Club)のグラウンドとジュノーFC脇の駐車場になっており,ここも立ち入ることができない。
ハイトリースポーツクラブのグラウンドの南東に隣接する八幡神社の境内地には立派な塚群がある。その塚群中の2基の塚に関しては古墳ではないかとの見解もあるのだが,もしそれら2基の塚が古墳であるとすれば,杉崎古墳群の一部を構成する古墳ということになるだろう。

杉崎古墳群を構成する主要残存古墳の分布図は,茨城県教育委員会編『重要遺跡調査報告書Ⅰ』(昭和57年3月)の31頁にある。この分布図で示されている道は,現時点において道路として使用されている林道のような道とほぼ一致している。ただし,現況としては一部「立入禁止」の表示のある道が含まれている。
また,開発用に造成されたけれども現時点では使用されておらず廃道のようになっている堀切状の部分が多数存在し,その堀切状の部分に沿って多数の古墳が破壊されたようで,その廃道のような部分及びその周辺に破壊された古墳の残骸がある。この開発は途中で中止になってしまったように見えるのだが,どこの開発主体によってどのような開発が実行されようとしたのか,どの範囲で遺跡が破壊されたのかを明確に示す資料等を発見できないでいる。
実際に踏査してみて,この分布図がかなり正確なものであることを理解した。ただし,この分布図に記載のない古墳が複数存在する。新たに発見された古墳もある。そして,この分布図には,古墳番号が全く記載されていない。
他方,内原町史編さん委員会編『内原町の遺跡-内原町遺跡分布調査報告書-』(1994年)の分布図Ⅱ-1の中に杉崎古墳群の分布図があり,12頁~13頁にその詳細な解説がある。
この解説によれば,杉崎古墳群は,40基の古墳で構成される古墳群とされており,田島古墳群と並び,かなり規模の大きな古墳群だと言える。実際に現地を踏査してみると,(特に分布域の東側の区画において)立派な古墳が丁寧に管理されて残されている。それらの古墳を見学してみると,非常に重要な遺跡だということを明確に認識できる。
ところが,『内原町の遺跡』の分布図Ⅱ-1には古墳番号が記載されていない。また,上記の開発用に造成されたけれども現時点では使用されておらず廃道のようになっている堀切状の部分の一部と現時点で道路として使用されている林道のような道とが一緒に記載されており,わかりにくい面がある。
そこで,同報告書の12~13頁にある解説と上記『重要遺跡調査報告書Ⅰ』の記載とを照合し,予め私製の仮分布図を作成しておき,それに従って古墳群を見学した。私製の仮分布図を作成するに際しては,国土地理院の地図も参照し,詳細データとの突合を行い,道である場所を特定した。

現況では,明示で立入禁止になっている場所が多数ある。そのような場所とその周辺には立ち入らず,原則として道から見える範囲内で見学した。

さて,杉崎古墳群の分布域の南端は,ハイトリースポーツクラブのグランドの南西側~ジュノーFC脇の駐車場付近となっている。
民家敷地内にある古墳(杉崎28号墳・全長28mの前方後円墳)の見学はできないし,グラウンド及び駐車場の敷地内に立ち入ることもできないので,道から見学可能な場所だけを見学した。

ハイトリースポーツクラブのグラウンドの西側の畑地の中に台状の地形部分がある。この台状の地形部分が杉崎29号墳(直径28m・高さ4.8mの円墳)に該当するのだろうと判断した。

杉崎29号墳所在地付近には杉崎40号墳という円墳もあったけれども既に湮滅しているとのこと。
茨城県生活福祉部編『茨城県立コロニーあすなろ地内古墳群発掘調査報告書』(昭和55年3月)の97頁には,杉崎40号墳から出土した石枕,立花,直刀,子持勾玉に関する詳細な記述がある。出土した石枕と立花は,極めて貴重なもので,水戸市の文化財に指定されている。
この報告書によると,杉崎40号墳は,杉崎八幡神社裏古墳とも呼ばれていたようだが,八幡神社の境内地にあったわけではなく,現在では杉崎28号墳とされている前方後円墳の北東約70mに位置し,直径20~25m・高さ3mの円墳だったようだ。
杉崎40号墳の所在地を現在の場所とマッピングしてみると,ハイトリースポーツクラブのグラウンド内に該当する。その場所は,グラウンドとして整地するために大きく掘削されており,地面の高さが当時よりもずっと低くなっているので,現在では空中になってしまっている場所に杉崎40号墳があったのだろうと思う。

ジュノーFC脇の駐車場の西側には杉崎30号墳(直径10m・高さ0.5mの円墳)があることになっている。駐車場内へは関係者及びグラウンド利用者以外立入禁止になっていると判断し,立ち入らなかったので正確ではないけれども,フェンス越しにざっと見た印象としては,既に湮滅しているのではないかと思った。


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南の方から見た杉崎29号墳?


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ハイトリースポーツクラブの入口付近
(右手上が駐車場)


ハイトリースポーツクラブの入口付近から北の方に向かって登る道がある。農業用軽四輪貨物自動車ならどうにか通行可能な幅の道路なのだが,たぶん,地元の人以外の利用を想定していない道路だと思う。砂利道であり,舗装されていない。この道が現在使用されている道路。
この道路の右手(東側)約20mのところに別の道路がある。開発用に構築されたけれども現在では廃道になっている道路だと判断した。この廃道のような道はところどころ通行困難な状態になっており,道路とするために掘削した土砂が左右に盛り上げられており,長く続く土塁のような姿となっている。しかし,それは現代の構築物(建設残土の投棄物の一種)なので,遺跡ではない。
この廃道を少し残ると,廃道敷地上または廃道敷地縁付近に杉崎1号墳~杉崎3号墳と思われる残骸を見つけることができる。
杉崎1号墳は,直径11m・高さ2mの円墳なのだが,墳丘のほとんど全部が湮滅状態となっている。廃道の敷地に古墳由来と推定できる石材が散在している。この場所が杉崎1号墳の所在地なのだろうと判断したけれども,確実ではない。
杉崎2号墳は,直径10mの円墳なのだが,墳丘の北側と西側の大部分が道路によって破壊されていることになっている。分布図に従って所在地付近を探したところ,道路脇に墳丘の残骸のようなものがあったので,その場所が杉崎2号墳に該当するのだろうと判断した。ただし,確実ではない。
杉崎3号墳は,直径10m・高さ1.5mの円墳。墳丘裾の一部が道によって大きく掘削されており,地山が島状に残った土地の上に高さがあまりない皿状の墳丘が残されている。

なお,廃道は,杉崎3号墳所在地付近までは普通に通行可能な状態となっている。そこから先は分岐する。西側を回る道部分は長年使用されていないらしく,低木が生え,倒木が放置され,かなりひどい状態となっていた。通行不能に近い。東側を回る道部分は(状態が良いとは言えないけれども)どうにか通行でき,杉崎4号墳所在地付近に辿りつくことができる。


IMG_5185.JPG現在使用されている道
(右手前の少し暗くなっている場所が廃道となっている道の入口付近)


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廃道となっている道


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杉崎1号墳の所在地と思われる場所(廃道上)


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杉崎1号墳の所在地付近の地面にある石材(古墳由来?)


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林の中の様子


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?


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杉崎2号墳の所在地付近
(手前は掘削による堀切状の部分)
(中央の崖状部分は掘削による法面・その上部が地山の地面)


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杉崎2号墳?


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杉崎3号墳


杉崎3号墳所在地の北側には,箱型に堀切状の掘削があるために,その内部だけが方形の島のようになって地山の一部が取り残されている区画がある。その場所の北側にある崖地に比較的大きな石材があった。

杉崎4号墳は,全長32m・高さ3mの前方後円部とされている。墳丘南部が削平されており,横穴式石室の一部と推定されている石材が露頭しているという。崖地にあった比較的大きな石材がその横穴式石室の一部と推定されている石材に該当するのだろうと判断した。

その石材のある崖付近に杉崎4号墳の墳丘の残存部分があるはずなのだが,残存しているのは後円部の墳丘の一部のみのようだ。杉崎4号墳の墳丘の大部分は既に消滅していると考えられる。


IMG_4776.JPG南の方から見た杉崎4号墳の石材所在地
(石材背後の崖とその背後の場所が墳丘の残骸と思われる)


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同上


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同上


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東の方から見た石材所在地


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杉崎4号墳の残存墳丘部分と思われる場所


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杉崎4号墳の墳頂と思われる場所にあった標柱


以上は,廃道となっている道に沿って存在する残存古墳。
この廃道ではなく,山の南側斜面を登る現在の道を北の方に登ると,道の右手(東側)に杉崎5号墳(直径16m・高さ3.2mの円墳)がある。
私が訪問したときには草木に覆われて墳丘がよく見えない状態だった。草木の葉が枯れる季節には墳丘がもっと明瞭に見えるだろうと思うので,再訪したいと考えている。


IMG_4800.JPG廃道になった道の西側に並行している現在の道路


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杉崎5号墳

杉崎5号墳所在地を過ぎ,もう少しだけ登ると,分岐点に至る。分岐点から尾根上の山道を右手(東方)に進むと,杉崎8号墳~杉崎18号墳の所在地付近に至る。この分岐点を左手(西方)に進むと,杉崎19号墳~杉崎26号墳などの所在地付近に至る。
実際に見学した後の感想としては,右手(東方)にある古墳の見学はお勧めなのだが,左手(西方)に分岐する道を進むことはあまりお勧めできない。

この分岐点は,杉崎7号墳(直径6m・高さ1.5mの円墳)の所在地ともなっている。後代の塚という見解もある。
現地で丁寧に観察してみたのだが,杉崎7号墳に該当しそうな地形部分を発見できなかった。既に湮滅しているのかもしれない。


IMG_4805.JPG南の方から見た分岐点付近



 水戸市教育委員会:石枕・立花



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