北茨城市関本町:大塚神社と古墳
過日,大塚神社(茨城県北茨城市関本町)を参拝した。祭神は,倉稻魂命。
大塚神社の由緒書には,「この境内地は古より大塚とよび前方後円墳にして・・・」と記されている。確かに,神社南側の参道から見ると,非常に大きな前方後円墳に見える。
前方後円墳と仮定した上で,神社の鳥居は後円部の前にあり,石段を登ると,後円部に相当する墳頂の一部(東側)を削平して社殿が造営されている。社殿は,少し古くなっているようではあったけれども,立派なものだった。本殿の彫刻には何かしら惹きつけるものがあり,しばし拝見した。
墳頂に相当する部分の西側部分は,少し盛り上がりのある地形となっており,現況は境内林と思われる山林となっている。
大塚神社が鎮座する山は,側面から見ると綺麗な前方後円墳のように見える。
通常の探索で調査可能な範囲内で調べてみたところ,前方後円墳とする見解が多数だったのだが,北茨城市史編さん委員会編『北茨城市史 上巻』(昭和63年)の152頁は,古墳の正式名称を夫婦塚古墳とし,別称を大塚古墳とした上で,「その立地や形状などから古墳として疑問視する説もある」と記している。ただし,その説の典拠(根拠とする資料の記載)が全くない。
同様に,『北茨城市史 上巻』の169頁は,『常陸多賀郡史』に初代多珂国造建御狭日命の墳墓としていることについて,「大正10年5月に内務省嘱託増田干信,茨城県嘱託粟田勤らによって踏査推定されたものである。この古墳は,夫婦塚とも呼ばれ,埴輪も出土したといわれ大型の前方後円墳として注目されてきた。『茨城県古墳総覧』にも「全長100メートル前後,前方部後円部幅は大差なく,周湟,葺石有」とし,陪塚もあったことを記している」としつつも,「しかし最近の調査では,自然丘陵とする見方が強くなっている」とも書かれている。しかし,ここでもまた,古墳否定説の典拠(根拠とする資料の記載)が全くない。
そのような資料が存在するのかどうか調べてみたけれども,(少なくとも正式の学術論文や詳細な発掘調査結果報告書等としては)現時点では見つけられないままとなっている。
瓦吹堅「北茨城市内の古墳と横穴」北茨城史壇4号24~40頁は,『北茨城市史』の編纂のための原資料となった論説と考えられる。その27頁には,「昭和55年3月,斎藤忠・大塚初重両教授の現地踏査がなされた。その結果,『多賀郡史』には埴輪の存在が記載されているが墳丘上からは発見されず,形状・立地などから古墳としては否定的な結論が出された。今後,十分な検討が必要である」と記されている。しかし,伝聞的な記述であり,典拠(根拠となる資料の記述)が全くない。無論,現代の最先端の科学技術を駆使した調査結果ではない。
白石太一郎「常陸の後期・終末期古墳と風土記建評記事」国立歴史民俗博物館研究報告 (35)131~161頁(1991年)では北茨城市関本町の大塚古墳について全く触れられておらず,無視された存在となっているのだが,古墳であることを明確に否定する根拠となし得るような記載も存在しない。単に失念しただけとも考えられるし,厄介なので触れないことにしたのかもしれない。よくわからない。
他方,積極説として,高萩市史編纂専門委員会編『高萩市史 上』(昭和44年)の69~70頁は,上記の大正10年5月の調査結果を引用し,大型の前方後円墳とする見解を示している。
茨城県教育委員会編『重要遺跡調査報告書Ⅰ』(昭和57年3月)の90頁は,大塚古墳を全長100m程の前方後円墳との見解を踏襲し,「自然地形を整形して盛土したものと考えられる」とした上で,大塚古墳の南方にある八塚古墳群(No.3807)に関し,「陪塚といわれ,大塚古墳群として把握できるものである」としている。
現時点の私見としては,最新の科学技術を駆使した精密な調査によって否定されない限り,前方後円墳説を支持したい。増田干信氏は,内務省嘱託として調査結果をまとめた。その事実を軽くみてはならない。ただし,当時における帝国陸軍の測量部等の関連機関との関係も知らないと,事の重大性を理解できないかもしれない。
一般に,もし外形の形状の観察だけで確定的に判断できるというのであれば,例えば,川越市の慈眼堂古墳のような,似たような特徴をもつ古墳全てを「古墳ではない」と判定すべきことにならざるを得ない。しかし,外見に関する主観的観察結果だけでそのように断定することが許されないことは言うまでもない。
ちなみに,自然の山から削り出して墳丘を造営した場合,(意図的に周濠を掘り下げたような場合を除き)周溝が最初から存在しないので,周溝の有無をもって判断の決め手とすることができないことは自明のことと考える。また,後代の改造等がある場合,測量調査も万能ではないということを銘記すべきだろう。特に,これまで知られていない形状の古墳の場合,測量調査は,全く無力なことさえあり得る。実際,測量調査の結果と発掘調査の結果とが齟齬している実例はいくらでもある。
神社探訪:大塚神社
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